すあげのしせきログ

文化、博物館を嗜みます。

発掘された日本列島2020

こんばんは。

先日、江戸東京博物館で現在開催されている「発掘された日本列島2020」(通称:列島展)を観に行きました。

 

この展示は平成7年に始まって以来、毎年行われていて、前年度に行われた発掘調査の中から特筆すべき成果が一同に展示されています。

この展示を見に行くのも4回目で、初めて行ったのは考古学専攻に入りたてだったあの頃...。というのは置いておいて、卒業論文を考古学で書き、大学時代を発掘調査に捧げた(嘘)私からみた見所を残しておきます。

 

その1『日本列島の旧石器』

1発目から完全に趣味です。中盤くらいに出てくる展示なんですが、北は北海道、南は鹿児島まで代表的な旧石器時代の石器を紹介してます。

 

あれ?沖縄は?と思われた方、勘が良いですね。沖縄にも旧石器時代遺跡はあります。サキタリ洞という洞窟遺跡をご存じでしょうか。沖縄県南城市にある洞窟遺跡でここからはなんと人骨が出土します。ですが、彼らの道具はまとまって出土しないため、生活の実態は未だ明らかになっていません。一説によると骨で釣り針のような物を使って魚を釣っていたのだとか...。

ちなみに、サキタリ洞は「ケイブ・カフェ」という観光施設として営業しているので誰でも入れます。いつか行きたいなあ。

 

脱線はこれくらいにして、この展示の見どころ紹介です。

この展示で注目していただきたいのはズバリ「石器に使用された石材」です。

この時代の人類が生き残るためには「道具」が必要でした。現代のように、プラスチックや金属など、ある程度自由に利用できる素材は当然ありません。そのような状況の中で人類は周囲にあふれていた「石」に注目しました。

日本列島は言わずもがな無数の岩石の集合体です。しかし、周囲に散らばっている「石」の様相は日本各地で異なります。ある場所では、黒く輝くガラスの様な「石」、また別の地点では独特の割れ方をする灰色の「石」が落ちています。当時の人類は、その場その場に落ちて、あるいは剥き出しになっている「石」を道具として選択しました。

今回の展示では、日本の旧石器時代遺跡で使用される代表的な石材を一度に観ることができ、さらにその石材の特性に合わせた剥離技術が用いられるという旧石器人の技術力の高さを実物資料をもって感じる事が出来ます。中でも、黒曜石の一大産地である白滝で営まれた白滝遺跡群の石器接合資料は、大きな母岩の加工過程が明瞭に見て取れる貴重な資料です!(出土した状態からここまで復元した作業員さん技術力もあっぱれモノです)

 

その2「縄文アスファルト

 「縄文時代アスファルト?」と疑問に思う方も多いかと思われます。なんせ高校日本史の教科書の端にちょこっと載っているくらいですから...。

アスファルト」と聞くと道路の舗装に用いられているあの暗灰色~黒色の素材を思い出す方が多いのではないでしょうか。あのアスファルトと使用される物質自体は同じです。(違いは純度です)

アスファルトとは「原油に含まれる炭化水素類に中で最も重質な物である」(ウィキペディアから引用)とあるように、原油が産出される地点で天然のアスファルトが産出されます。日本の油田は秋田県新潟県など、日本海側を中心に分布していますよね。そういった原油産出地点に近い遺跡では、石鏃や土器にアスファルトが付着した状態で出土する事があります。

今回特集されている岩船渡遺跡も新潟県の遺跡。原油の産出地点に近い事からも、様々な用途でアスファルトが利用されています。特にアスファルトのパレットとして紹介されている土製品なんかは、恒常的にアスファルトを利用してた証拠ですよね。

また、他の出土品の中に、関東系の石材で製作された石棒が混じっています。このことからもアスファルトに利用は産地付近だけでなく広域に広がっていた事が予想されます。事実、奥羽山脈を越えた太平洋側の縄文遺跡においてもアスファルトの付着が確認されています。この展示をみて縄文時代の意外な一面に触れるきっかけになればなと思います。

 

その3「玉づくり製作工房跡」

こういうのが一番好きなんですよね。石川県小松市八日市地方(ようかいちじかた)遺跡から出土した碧玉製ビーズが展示されていました。ただビーズを繋げたネックレスのようなものは何度か見たことがあるのですが、この遺跡では、碧玉の原石、荒割りされた後のもの、擦り切りが行われている最中で捨てられているもの、台石に擦り付けられているもの、完成品など生産工程が見て取れる様な碧玉が出土します。また、擦り付けられたと思われる台石は、表面が波状になっており、細長い碧玉の棒を一生懸命擦って磨いた事が分かります。

なぜこのような状態で土の中に埋没する事になったのでしょうか。災害や争い、疫病などその場に道具を置いてその土地を離れなければならなかった理由を考えるというのも考古学の楽しみ方のひとつだと私は考えます。

 

以上、私から見た「発掘された日本列島2020」の感想でした。

最近はコロナの感染者数も増えて更なる警戒が必要になってきます。展覧自体はまだ開催されますが、見学を検討している方は十分気をつけてください。

本展示は、図録だけでも相当魅力的な物に仕上がっていますので(というか毎年出来が良い)、ステイホームで図録を眺めるという楽しみ方も出来ると思います。

購入はこちら。

 

おしまい。